高橋道雄:強くなる将棋虎の巻 初段を目指す!

総合的な棋力アップのお手伝い
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評価:B
対象者:8級〜2級
発売日:2009年4月

50歳を目前にA級カムバックを果たしただけでなく、2009年度のA級順位戦では6勝3敗(7勝2敗の三浦八段が挑戦権獲得)の好成績を収め、1992年以来となる名人戦の桧舞台まであと一歩と、完全な復調モードに入った高橋九段。

本書はそんな高橋九段が、初段を目指す初〜上級者の方を対象に書いた総合的な棋力アップのための参考書です。A5版のサイズや表紙のデザインは、例のイラストが特徴的な創元社の本とはとても思えません。

本のサイズ・内容・対象棋力だけ見ると、高橋九段が山海堂(2007年に倒産)から出して好評を博した「将棋手筋の教科書」と同シリーズと言われても違和感ありませんが、ひょっとして元々そっちに用意していた原稿を…(以下略)

全190ページの4章構成で、盤面図が見開きに4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 強くなる極意四十六ヶ条(局面の考え方)
第2章 次の一手問題(定跡編:20問 高橋九段の実戦:20問)
第3章 詰め将棋(3〜5手詰めを44題)
第4章 必至問題(1〜3手必至を44題)

相矢倉でよく出る手筋ですが…

第1章 強くなる極意四十六ヶ条より:図は△8七歩まで
テーマは「Z(=絶対に詰まない形)で勝ちをつかもう」です。△8七歩は矢倉戦での頻出手筋で、▲同金や▲同玉は△9五桂ですが、ここでは大悪手でした。

先手は▲9八玉と寄り、駒を何枚渡しても詰まない形になりました。▲9八玉以下、△6六歩▲5三歩成△6七歩成は▲4三と△同金▲3三歩で先手勝ちです。

実際は光速流を信用して痛恨の頓死

第2章 次の一手問題 実戦編より:図は△7七銀まで
この問題では三手の読みが求められています。正解は▲7七同金寄△同桂成▲9七玉で、先手玉に詰みがないため勝ちとなります。

出典は明記されていませんが、これは高橋九段が「自玉は詰み」と勘違いして▲9七玉で▲同金としたために、△5八飛でトン死した棋王戦(対谷川九段)ですね。

3手で受け無しに

第4章 必至問題より
盤面図が小さくてわかりにくいかもしれませんが、3一の駒は「龍」です。正解は▲3三銀△同香▲3二金の3手必至です。

2手目の△同香で△同桂は▲2二龍△同玉▲3四桂以下、簡単な詰みです。▲3三銀△同香で3三の地点を埋めて、受けのスペースを無くすのがポイントでした。

目次を見てもらえばお分かりいただけると思いますが、局面の考え方・次の一手(定跡&実戦)・詰め将棋・必至問題と、本書がカバーしている範囲は非常に幅が広いです。そのため「これ一冊で初段に!」とはいきませんが、定跡・手筋以外の必要最低限なことはコンパクトにまとめられています。

なかでも「局面の考え方」をテーマにしている第1章は、途中から高橋九段の実戦で登場した局面&指した手を元に解説が進められているため、プロの中・終盤における大局観に触れることができます。

個人的には「手厚くの感覚を磨こう(P31〜)」や「やるだけやって一呼吸(P78〜)」、「懐を深く構える(P94〜)」が他の棋書では見られない講義で勉強になりました。このあたりは有段者でも参考になるかと思います。

詰め将棋・必至に関しては中級レベル以上の方なら、実戦でノータイムで指せるかどうかは別として、スラスラと解けて当たり前の問題ばかりです。必修の基本パターンばかりを厳選していますので、初級に近い方は是非頭に叩き込んでください。

第1章は単独で読んでもOKですし、その他の章は各ジャンルの専門書で勉強した後のの復習用として併用すれば、棋力アップの一助になるでしょう。

初段を目指す方のための総合的な問題集としては、武者野七段の「将棋 実力初段検定―読みと手筋と大局観」もなかなかの出来となっています。掲載されている問題も一部紹介していますので、本書が気になる方はそちらのページも参考にしてみてください。