高橋道雄:将棋手筋の教科書 囲いの崩し方編

勝敗に最も直結する部分をわかりやすく解説しています
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評価:A
対象者:10級〜初段
発売日:2007年3月

シリーズ最終巻のテーマは「囲い崩し」です。「手筋の教科書 歩・香・桂編」、その続編「銀・金・角・飛編」で学んだ手筋を駆使して、美濃囲い、銀冠、穴熊、矢倉などを攻略していきます。

構成はこれまでの2冊とは大分変わっています。まず最初に、見開きの右のページでテーマとなっている囲いを大きな盤面図で掲載して、その囲いの長所を大きな太字で解説しています。一方、左のページではその囲いの基本的な崩し方を簡潔に解説しています。例えば銀冠のページでは「銀冠での守りの急所の駒は7二の金です。これをはがせると、銀冠も途端に弱体化します。(以下略)」といった感じです。

また、その解説部分の上には「目のつけどころ」と題して、囲い崩しのポイントが「1.△7二金を攻める 2.△6三金にアタック&端攻め…6.玉頭への連打」のようにまとめられています。さらにその横にはどのページを読めば、そのポイントが解説されているのかが一目でわかるようになっており、非常にわかりやすい導入部になっています。

それ以降のページは実戦図を基にした囲いの崩し方を基本編と応用編に分けて見ていきます。基本編では手筋の一手を放つまでを、そして応用編ではそれ以降の手順を詳しく、時には詰みの有無までしっかりと確認していきます(ページによっては有段者レベル)。また応用編では、基本編とは類似しているものの、少し局面が複雑化した別の盤面図で寄せを考えることもあります。

全286ページとこれまでに比べて70ページほど増量されており、見開きには盤面図が4〜5枚配置されています。テーマとなっている囲いは以下の通りです。

美濃囲い(高美濃・天守閣美濃・四枚美濃を含む) / 銀冠 / 舟囲い(△4一金型・△4二金型) / 穴熊(イビアナ・振り穴) / 矢倉 / その他の囲い(トーチカ・中住まい・横歩取り△4一玉形・右玉・雁木・金無双)
練習問題(30問)

穴熊囲い(居飛車)「3三の地点が急所だ!」より:図は△5四香まで
次の△5七歩成を狙って△5四香と打ったところですが、これは悪手で△4二銀と守りを固めるべきでした。ここで▲5三角成が決断の一手で、△同金に▲3三香で後手玉は一気に寄り筋となります。

▲3三香に△同桂は▲3二銀と打って、後手玉はノックアウトです。△同桂に代えて△3二桂と粘りに出てきたら、▲2五桂打とじっと3三の地点にプレッシャーを加えておくのが次なる好手です。持ち駒の桂馬をわざわざ打つのは、3七の桂馬を残しておけば、△4五歩と突かれたようなときに、▲同桂と取れるとの意味です。

以下△5七歩成には▲3二香成△同桂▲3三桂打と攻め込みます。この部分は既に応用編の内容ですが、これ以降の寄せ方もさらに詳しく掲載されています。

さらに、最初の▲3三香と打つ手に代えて、▲3三桂とする有力手(次の▲3二銀が猛烈に厳しい)も引き続いて解説されています。

反復練習するような問題集ではなく、絶対に覚えておかねばならないポイントを丁寧に解説した一冊です。既に囲い崩しの本を読んだことのある方なら「1秒」でわかるテーマ図が多いのですが、本書では見開き左ページの応用編で、それ以降の手順をしっかりと検証したり、他の寄せ方も詳しく見て行くので上級者の方でも新たな発見があると思います。

各テーマの最後には「おさらい」として、それまでに見て来た囲いの崩し方を端的に箇条書きでまとめてありますので、初級者の方には復習の際にも便利でしょう。

また中〜上級者の方には、随所で登場する「実戦譜ノート」という見開き完結型のコーナーも参考になります。これは高橋九段の実戦での終盤の局面が掲載されており、これまでに学んだ手筋を、実際にプロの華麗な技で見ていきます。やや高度な内容ですが、おまけ的コーナーでありながらびっしりと解説されていますので、余さずに読んでおきたいところです。

代表的な囲いを網羅(比較的新しいトーチカまで掲載)していますし、ボリューム感もあり、読んですぐに効果が出ることが期待できる本書がシリーズ3冊の中では一番のオススメです。採り上げているテーマや構成は、「NHK将棋講座」の内容を書籍化した「屋敷伸之の囲いの崩し方」と似ていますが、本書の方がはるかに読みやすくなっています。

囲いによってその急所となる部分は千差万別ですので、本書でしっかりと勉強して、実戦に活かしてみて下さい。いい本だけに出版社の倒産による絶版は残念なところです。