金子タカシ:寄せの手筋200

ついに待望の復刊となりました
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評価:S
対象者:10級〜四段
発売日:2010年4月

アマ竜王戦優勝など強豪として名を馳せた金子タカシ氏が、専門誌「将棋ジャーナル」の付録として手がけた必死問題が好評を博したことを機に、1988年に刊行された「寄せの手筋168」。

現在に至るまで数々の必死問題集が刊行されましたが、初級者から高段者までが参考になる必死問題をこれほど豊富に、かつパターン別にカテゴライズしたものはほとんどありませんでした。

そんな名著にも関わらず、随分早い段階で絶版となってしまい、それ以降はご存知の方も多いと思いますが、オークションやAmazonのマーケットプレイス(古本市場)で5000円〜という非常に高価な値段で取引されていました。

復刊を望む多くの将棋ファンの声は金子タカシ氏にも届いていたようで(本書の前書きを参照)、この度ようやく浅川書房から「寄せの手筋168」を改訂した決定版として「寄せの手筋200」が刊行されるに至りました。

本書のベースはもちろん「寄せの手筋168」ですが、問題の重複率は全体の約3/4となっており、残りの1/4は同じく金子氏の必死問題集として評価の高い「ザ必死!」と「詰みより必死(いずれも絶版)」からの出題となっています。

具体例を挙げると、「ザ・必死」のページで紹介している1番目の盤面図は本書の第38問として、「詰みより必死」のページで紹介している4番目の盤面図は本書の137問目としてそれぞれ登場しています。

全230ページの11章構成、1ページあたりの出題は2問となっています。
必死問題は「手数別に分類」するのではなく、「挟撃」「退路封鎖」「頭金までのプロセス」など「テクニック別に分類」してあります。では目次を見てみましょう。

  • 第1章 上から押さえる(第1〜16問)
  • 第2章 挟撃の寄せ(第17〜32問)
  • 第3章 馬と角の活用(第33〜52問)
  • 第4章 龍と飛車の活用(第53〜82問)
  • 第5章 退路封鎖(第83〜96問)
  • 第6章 頭金までのプロセス(第97〜108問)
  • 第7章 端玉には端歩(第109〜120問)
  • 第8章 腹銀を使いこなす(第121〜138問)
  • 第9章 必殺の両王手(第139〜152問)
  • 第10章 さまざまな寄せ(第153〜192問)
  • 第11章 手筋の組み合わせ(第193〜200問)
お馴染みの必死パターン

第1章 上から押さえる 第7問より
「玉は下段に落とせ」の代表例とも言える必修パターンの一つです。
正解は▲2一飛成△同玉▲2三銀です。桂馬を入手したのがポイントで、△3二金には▲3三桂△同金(△3一玉は▲4一金)▲2二金で「金頭の桂」の筋で詰みとなります。このパターンを念頭に入れておけば、次の応用問題も解けると思います。

飛車は思い切り捨てる

第1章 上から押さえる 第16問より
正解は▲2二銀成△同玉▲2一飛成△同玉▲2三銀の5手必死です。

意外な捨て駒で玉を追い詰めます

第4章 龍と飛車の活用 第58問より
龍の王手に対して金で叱りつけられた局面ですが、以降の手順を予め踏まえた上での▲6二龍なら最高だと思います。
正解は▲9三金(!)△同玉▲7二龍です。▲9三金に対して@△同桂は▲7四桂△同歩▲7三金以下、A△同香は▲9二金△同玉▲7二龍△8二金▲8四桂△同歩▲8三金以下、それぞれ詰みとなります。

最終手▲7二龍に対して、@△8二金は▲8五桂△9二玉▲9三金から清算して詰みですし、A△8五金や△8四金も▲8二金で受け無しとなります。

守備陣の隙を突く寄せ

第10章 さまざまな寄せ 第179問より
守備駒が強力に見えますが、間隙を突く鋭い寄せがあります。
正解は▲4二飛成△同銀▲3二金△1二玉▲2四桂△同歩▲3三金です。▲2四桂で2三の地点に空間を作ってから、▲3三金と角道を通すのが好手順で、2三の地点の数的有利で次の▲2三銀が受かりません。

どの章も冒頭でテーマとなっている必死パターンを盤面図を交えて、その狙いと考え方を簡潔に紹介しています。例えば第1章では「下段に玉がいる場合、上から押さえるのが絶対の急所だ。下段の玉は下に逃げることができないので、上部から抑えるだけで包囲網を築くことができる。〜(おもいっきり中略)〜また、上から押さえるため、一歩進んで、玉を下段に落とすことも大切な心得となる。捨て駒によって玉を下段に落とすことも多い。」といった具合です。

問題は「基本」「応用」の2レベルに分かれており、まず必修テクニックを習得するための「基本問題」を解いた後、そのテクニックを活かすことによって初めて解ける「応用問題」にチャレンジして、最後に「復習問題」で章を締めるというスタイルです。

各問題の解説ページには必死が掛かった最終局面を「解答図」として掲載しています。応用レベルの問題でも失敗図や途中図などは登場せず、盤面図はこの1枚だけですが、どの問題も解説文が20文字×9行あるので、本書が必死問題集のデビューとなる方でも安心して読むことができるでしょう。

基本問題と応用問題で難易度の差はありますが、基本問題で学んだテクニックとその収束図をイメージして望めば、自然とワンランク上の問題も解けるのが本書の秀逸な点です。

一応、対象棋力を倶楽部24の基準で10級〜四段としましたが、前著「寄せの手筋168」を読んだことのない方は棋力に関係なく、1冊で必死パターンの大半を習得・再確認できる本書は文句なしにオススメです。

僕は前書も含めて金子氏の必死三部作は全部持っていますが、棋書レビューサイトを運営する立場上、本書をレビューしないのはあり得ないと思いましたので、即購入しました。しかし、三部作を既に持っている方にとっては、問題・構成・解説も含めて目新しい点はほとんどないので、無理して購入することは無いと思います。

ところで、いずれこの本も絶版になって、再び高値でオークションで取引されることを睨んで複数冊購入された方もいるとか、いないとか(笑)。多分、その頃は電子書籍の普及で古い棋書はダウンロード形式で購入できると僕は予想しているのですが…

なお、復刊シリーズの第二弾は、美濃囲いの攻略に欠かせない基本・応用レベルの手筋を網羅した「美濃崩し200」となっています。最近は相振り飛車で美濃囲いを相手にすることも多いので、居飛車党だけではなく、振り飛車党の方も参考にしてみてください。