電撃!!イナズマ流次の一手200題

里見香奈女流名人の妙技を堪能
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評価:D
対象者:5級〜三段
発売日:2009年4月

2010年の第36期女流名人位戦で清水市代・三冠を破り、林葉直子さん(今は何処へ)、中井広恵女流六段に次ぐ史上三番目の若さ(17歳)で女流名人の座を獲得した里見香奈さんの実戦を題材とした「三択形式」の問題集。

その鋭い寄せから「イナズマ流」と言われた師匠の森九段と同じ異名をとる彼女の妙技を堪能できる一冊なのですが…残念な点がチラホラと。
なお本書が出版されたのは2009年ですので、題材となっている将棋は里見女流名人が倉敷藤花もしくは無冠時代だった時のものです。

全236ページの10章構成で、1ページあたり問題が2つ出題されています。盤面図の横にはA.B.Cの三つの候補手と共に「急がない」「穴熊の急所」「気迫の勝負手」などの短いヒントが添えられています。目次は以下の通りです。

第1章 「一閃!」次の一手(第1〜20問)
第2章 「自慢!」次の一手(第21〜40問)
第3章 「妙手」次の一手(第41〜60問)
第4章 「厳しい攻め」次の一手(第61〜80問)
第5章 「きれいに決める」次の一手(第81〜100問)
第6章 「寄せの形」次の一手(第101〜120問)
第7章 「穴熊の急所」次の一手(第121〜140問)
第8章 「数の攻め」次の一手(第141〜160問)
第9章 「気迫の勝負手」次の一手(第161〜180問)
第10章 「イナズマの寄せ」次の一手(第181〜200問)

美濃囲い攻略と言えばこの筋です

第5章 第95問より:図は△3七角成まで
候補手はA.▲5七香 B.▲4三歩 C.▲5三桂ですが、美濃崩しと言えば有名なあの筋を思い出せれば簡単な問題ではないでしょうか?

そう正解はC.▲5三桂です。対して△同金は▲6二香△7一金に▲9四歩△同歩▲9二歩△同香▲9一角△同玉▲7一龍で「ヘイ!一丁上がり!」となります。

この即詰みが読めるとは流石です

第5章 第99問より:図は△8三金まで
候補手はA.▲5五角 B.▲8三龍 C.▲7四桂ですが、ここでは即詰みを読みきったC.▲7四桂が正解となります(僕はわかりませんでした)。

▲7四桂以下、△同銀は▲8三銀で簡単ですが、代えて△7二玉と寄ったときに▲8一銀のただ捨てが見えるかどうかがポイント。△同玉は▲8三龍ですので、△同龍としますが、以下▲6三銀△7三玉▲5五角以下詰みです。

本書の問題点としてはまず誤植が15問くらいあります。盤上に角と馬があるのに、駒台にも角があったり、解説の文章で指定の位置に駒が行けなかったり…。「羽生善治 妙技伝」の時もそうでしたが、トップ棋士の「次の一手」問題集に森九段が加わるとどうしてこんなに誤植が多いのか?

また、第8章は「穴熊の急所」というタイトルにも関わらず、最初の問題から「美濃VS左美濃」「美濃vs矢倉(相振り飛車)」「美濃vs玉頭位取り」と穴熊とは全く関係ない局面が続きます…なんなんだこの構成は。

さらに本書は表紙に「共著:森けい二・里見香奈」とありますが、問題の解説はもちろん、「はしがき」「あとがき」「エッセイ(?)」も全て森九段が担当しており、里見女流名人の文章は全く登場しません。

森九段は監修だけと聞いていたところ、出来上がったら出版社のミスか意向でこういう本になってしまったのかわかりませんが、里見さんの名前だけが利用された感じで後味が悪いですし、そもそも読者はだまされた感じがするでしょう。

売り出し中の男性若手プロの稲葉四段を破るなど、里見女流名人の強さは誰もが認めるところです。本書でもそんな彼女の強さを堪能できる問題が200問用意されていますが、上記のようなことがありなんとも残念な一冊になってしまいました。