将棋・ひと目のさばき 軽さが身につく200問

戦型の偏りが残念
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評価:C
対象者:10級〜3級
発売日:2010年1月

「MYCOM将棋文庫SP」として刊行された「将棋・ひと目の〜」シリーズ。
第5弾のテーマは"捌き(さばき)"です。捌きと聞いてイメージするのは「振り飛車」「久保二冠」「中田功七段」など人それぞれと思いますが、意味をしっかりと説明するのは案外難しいですよね。

自陣の駒(居飛車なら盤面の右半分、振り飛車なら左半分の駒)を遊ばせずに有効活用して、相手の駒と交換したり、あるいは小駒を犠牲にして大駒を敵陣に成り込むなどして、局面を優位にする一連の手順…といった感じでしょうか。

本書はその捌きのポイントを部分図を使った基本編と全ての駒を配置した実戦編の2段階に分けた「次の一手」形式の問題で学んでいきます。

全416ページの5章構成で200問が掲載しています。出題は1ページあたり1問となっており、問題図の下には問題を解くうえでの簡単なヒントと難易度(★印による5段階表示)が示されています。

解説のページには正解図に加えて、変化手順を示した「参考図」あるいは正解手以降どのように局面が優勢になるのかを示した「成功図」も掲載されています。

第1章 基本のさばき(第1問〜第64問)
第2章 石田流(第65問〜第113問)
第3章 ゴキゲン中飛車(第114問〜第151問)
第4章 四間飛車対急戦(第152問〜第177問)
第5章 矢倉(第178問〜第200問)

基本編はポイントのみを部分図で表示

第1章 基本のさばき 第60問より 図は△7五歩まで
第1章は上図のようにポイントのみ焦点を当てた部分図の形で出題されています。

居飛車の斜め棒銀 対 四間飛車を想定した問題ですが、このような場面では▲同歩とするのは最悪で、以下△同銀▲7六歩には銀をバックせずに△8六歩から飛車先を突破されてしまいます。基本的に居飛車の攻めの銀が、盤上の五段目に進出されては振り飛車よくありません。

ここでは「攻められた筋に飛車を振る」という格言があるように▲7八飛が正解となります。本書ではこの問題を実戦形式に応用して下の問題にリンクしています。

斜め棒銀の定跡

第4章 四間飛車対急戦 第167問より 図は△7五歩まで
上の問題でポイントを理解したならば、正解手▲7八飛は当然見えると思いますが、本書ではこれ以降の一連の手順もワンセットとして問題として出題されています。

その手順とはすなわち、▲7八飛△7六歩▲同銀△7二飛▲6五歩△7七角成▲同飛△5三銀引▲6七銀△7七飛成▲同桂△7六歩▲同銀△7九飛▲6七銀…で、太字の部分がそれぞれ第168〜170問の正解となっています。

「捌きとはなんぞや?」という初心者の方にとっては、ポイントを簡略化するためにまず部分図を使って「桂のさばき」「飛のさばき」…と駒別に実戦でよく現れそうなを手順を紹介するという第1章のスタイルは悪くないと思います。

しかし、第1章以降の問題は全て上図のような定跡形に限定されているのが残念なところです。また、目次を見ていただけるとわかると思いますが、取り上げられている戦型が少なく、軽い捌きの代表格であるノーマル三間飛車は登場しません。石田流とゴキゲン中飛車の問題だけが多いなどの偏りも気になります。

そもそも、捌きは「感覚」で掴むものですので、「次の一手」形式の問題集は本書のテーマには向いていなかったかもしれませんね。

基本をマスターしたら、遠回りのようですが、「久保利明のさばきの極意」や四間飛車の勝局だけを131局収録した「四間飛車のバイブル」などに掲載されている将棋を地道に盤で並べて「体で覚える」のが一番の勉強法だと思います。

シリーズが刊行された当初は「ひと目の寄せ」や「ひと目の端攻め」など良書が出ていましたが、ここに来てイマイチな本が続いています。ヒットした映画作品がシリーズ化されると、段々と期待を裏切る内容になる傾向がありますが、「ターミネーター」シリーズで例えるなら、本書は「ターミネーター3」といったところでしょうか。