金子タカシ:美濃崩し200

タテ・ヨコ・斜め・端攻めの手筋を網羅!
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評価:S
対象者:10級〜四段
発売日:2010年12月

終盤の上達に欠かせない"寄せ"と"受け"のエキスがぎっしりと詰まった「寄せの手筋168」・「凌ぎの手筋186」・「美濃崩し180」。著者であるアマ強豪・金子タカシさんの名前をとって「金子三部作」とも呼ばれている同シリーズは、幅広い棋力の方に高い評価を受けているにも関わらず、早い段階で絶版になったため、一部のオークションを除いては入手が困難な状況が続いていました。

そんななか、復刊を望むファンの声に後押しされたのか、2010年にようやく、三部作の長男坊「寄せの手筋168」が、浅川書房から「寄せの手筋200」としてリニューアル復刊されました。本書は「寄せの手筋200」に続く復刊シリーズの第二弾で、三男坊の「美濃崩し180」をベースとして、加筆・再構成を行ったものです。

美濃崩し180」が刊行されたのは1997年。あれから10年以上が年月が過ぎ、その間に将棋の戦法は大きな変貌を遂げました。振り飛車では、ゴキゲン中飛車を中心に角道オープン型の振り飛車が猛威を振るっています。

しかし、飛車の振る場所、角道オープン型・クローズ型に関わらず、振り飛車の囲いの基本が美濃囲いであることには変わりません。また、相振り飛車の将棋も当時に比べて激増していますので、美濃囲い攻略の重要性は低くなるどころか、むしろ高くなっているといえるでしょう。

本書はそんな「美濃囲い」を、片美濃・本美濃・高美濃・銀冠などに分類し、タテ・ヨコ・斜め・端の4種類の必須手筋を組み合わせながら、サクサクと攻略するテクニックをレクチャーしています。

全236ページの7章構成で、1ページあたりの出題は上下分割で2問となっており、ページをめくると正解手順と解答図、10行程度の解説が掲載されています。
また、問題図の横にはヒントとして「縦・横・斜め・端」のどの手筋を使用するのかが、矢印(↑↓←など)で表示されています。目次は以下の通りです。

プロローグ(美濃囲いの分類と特徴ほか)
第1章 片美濃崩し(第1〜62問)
第2章 本美濃崩し(第63〜132問)
第3章 高美濃崩し(第133〜148問)
第4章 銀冠崩し(第149〜168問)
第5章 木村美濃・金美濃崩し(第169〜180問)
第6章 トドメのテクニック(第181〜188問)
第7章 定跡テクニック(第189〜200問)

第1章 片美濃崩し(第31問)より
いきなりの▲6二香は、△同金だと▲7一銀で簡単ですが、△7一金とかわされると二の矢がありません。横の攻めだけではなく、端も絡めて攻略しましょう。

この局面では▲9五歩△同歩と味付けをしてから、▲6二香が正解。以下、△7一金に▲9二歩が先の突き捨てを活かした後続手。△9二同香は▲9一銀△同玉▲7一龍と金を取って寄り筋です。まとめると、正解手順は▲9五歩△同歩▲6二香△7一金▲9二歩△同香▲9一銀△同玉▲7一龍です。

この問題はここまでですが、同一の手筋を応用した問題が次々と出題され、豊富な寄せのパターンをマスターできるのが本書のいいところ。例えば、上図と同じ局面で持ち駒を替えたり、減らしたりする問題がこの後に続くことになります。

第32問:持ち駒が「銀・香」の場合…▲9五歩△同歩▲6二香△7一金▲9五香△同香▲9一銀…以下、前問と同一手順。

第33問:持ち駒が「角・桂・歩」の場合…▲9五歩△同歩▲5三桂△7一金…以下、同一手順で▲9一銀の所を▲9一角で代用して一丁上がりです。

第34問:持ち駒が「角・桂・歩×2」&玉側の△5四歩が△5三歩の場合…▲9五歩△同歩▲9三歩△同香▲9四歩△同香▲8六桂△8五銀▲9四桂△同銀▲6二香△7一金…以下、同一手順で寄りとなります。

第1章 片美濃崩し(第54問)より
仮に8五の銀がいなければ(第53問で登場)、▲9三角△8一玉▲9二銀△同玉▲7一角成の開き王手があり即詰みとなりますが、本題では銀がいますので、開き王手の際に△9四銀と香を外されてアウトです。

正解は▲9三角△8一玉▲8二銀△9二玉▲7一銀不成です。▲7一銀不成は詰めろですので、△同金としますが、今度は同じ▲7一角成の開き王手でも金を手持ちにしていますので、香を外す△9四銀には▲9三金から詰みとなります。

第3章 高美濃崩し(第138問)より
正解は▲9五歩△同歩▲9三歩△同香▲8六桂△9一香▲7四桂△同金▲6三香△7一金▲6二香成です。

香車を吊り上げてから▲8六桂で次の▲9四歩を見せておいて、△9一香と受けさせる。そこで一転して、▲7四桂と逆方向にダイブ。△同金で6三の地点に空白を作ってから、▲6三香〜6ニ香成が鮮やかな寄せです。

第4章 銀冠崩し(第156問)より
居飛車穴熊 vs 四間飛車の終盤でいかにも遭遇しそうな局面ですね。
対美濃囲いでは端攻めが攻略の一つのカギですが、ここでも▲9三香が鋭い一着で、以下△同玉▲9一龍△9二香▲8二銀△同金▲7一角で寄りとなります。

▲8二銀△同金と銀を捨ててから▲7一角と打つのが、角のライン上に玉を入れる好手で、△8一銀と受けても▲同龍で意味がありません。途中の▲8二銀に△9四玉と逃げるのは、▲9六歩が厳しすぎます。

ベースとなっている「美濃崩し180」を既にお持ちで、本書をどうしようかと思っている方もいるかもしれませんので、本書でリニューアルされた部分の紹介を交えてレビューしていきます。

まず、前巻では「美濃崩し 実戦テクニック」として、監修者である屋敷九段の実戦からの出題(全3問)に加えて、該当局の棋譜が掲載されていましたが、本書ではこの部分は全部カットされています。

一方、前巻から増量されているのは、部分図を使って手筋を解説する第1〜5章で18問、第7章の定跡編で5問となっています。ちなみに、2010年の▲瀬川−△広瀬戦(HNK杯)をヒントにしたと思われる手筋が第17問に登場していますので、お持ちの方はコチラの実戦譜の85〜86手目と見比べてみると面白いでしょう。

各章の冒頭ではイントロダクションとして、盤面図を交えながら、片美濃・本美濃・高美濃・銀冠等の急所、攻めるときの注意点を1ページに渡って解説。これは「美濃崩し180」にはなかった部分です。

例えば、本美濃(金銀3枚の平らな美濃囲い)の章では、「本美濃は片美濃と違い、要の駒である△6一金をいきなり攻めるのは難しい。まずは防壁となる△5二金に働きかける必要がある。△5二金を無力化できれば、片美濃で使った手筋がそのまま応用できる。」といった具合です。

問題の多くは前巻からの重複ですので、難易度や構成は変わりません。
まずは「縦・横・斜め・端」のいずれか一方向、かつ手数の短い(3〜5手)必須レベルの問題が出題されます。そして、基本手筋がマスターできたら、それらを複数組み合わせて囲いを崩す応用問題が登場します。

応用問題は上図のように、実戦形に限りなく近いうえ、持ち駒や駒の配置に変化を持たせたバリーエーション豊かなものになっており、類似の問題を繰り返して解いていくうちに、見た瞬間に急所が頭に浮かぶようになります。

手筋をただ網羅するだけではなく、「単一の手筋による攻め(基本)」から「複数の手筋を組み合わせた攻め(応用)」への流れが自然ですので、レベルが上の問題でも、抵抗感なくチャレンジできるのが、本シリーズが長きにわたって支持されている理由ではないでしょうか?

手筋のマスターを最優先させるため、第1〜5章は守備側のみ玉を配置していますが、実戦での終盤は相当な実力差がない限り、自玉周辺も火の手が上がっているはずです。そこで総集編となる第6章「トドメのテクニック」では、特定の駒を渡したら自玉は即詰みという、「自玉との兼ね合いも読みながら相手玉を寄せる」問題が8題出題されています。この章は前巻と全く同じ内容です。

最終章の定跡編は、山田定跡や棒銀、右四間飛車等の定跡で講座内の手筋がどう使われているかを紹介するものですが、本書の趣旨からやや外れた「参考資料」的な要素が強いので、この章の問題を12題も出す(しかも、この章だけ1ページにつき1題)のなら、第6章「トドメのテクニック」を増やして欲しかったところです。本書で唯一残念なところがあれば、この点でしょうか。

囲い崩しの棋書は数多く出版されています。しかし、「美濃囲い」に特化して、基礎から応用レベルまでの手筋をこれほどコンパクトにまとめた本は他にありませんので、前巻をお持ちで無い方は棋力を問わず、一読されることをオススメします。
一方、既に前巻をお持ちの方は、使い込みで本でボロボロになっていない限り、改めて購入する必要はないでしょう。

次は「凌ぎの手筋186」が復刊されると思うので、そちらも楽しみにしたいと思います。ただ、個人的な希望としては、新刊で「穴熊崩し200」を出してほしいところ。
居飛車対振り飛車の対抗形におけるイビアナ、フリアナはもちろん、矢倉戦でも「隙あらば穴熊」という格言があるように、戦型を問わず穴熊は現代将棋を象徴するひとつのキーワードとなっています。

スーパー敦君こと宮田敦六段が、穴熊崩し&凌ぎのテクニックを「将棋世界」の付録で2回に分けて解説していましたが、あれを手筋ごとに体系化&増量したうえで単行本化してほしいな、と。