丸山忠久:ライバルを倒す一手

表紙なのに後ろ姿を映すとは(笑)
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評価:C
対象者:5級〜五段
発売日:1998年10月

その勝負に辛い棋風から「激辛流」と呼ばれている丸山九段。BS放送で全国中継された「A級順位戦」の特集番組では、午前0時を回った対局中(対藤井九段戦)にお腹がすいたのか、コンビニ袋から「カロリーメイト」を取り出し、モグモグと食べる姿を映されたため、一部のファンからは「モグモグ流」とも呼ばれています(笑)。

本書はそんな丸山九段が執筆した唯一の棋書となっており、自身の実戦から「逆転を狙う勝負手」「攻めの決め手、受けの決め手」などのテーマごとに「次の一手」形式で問題を出題・解説しています。

ところで、棋士が表紙になる時は顔を正面、もしくは横から撮るのが一般的なのですが、何故か本書では後姿が…これじゃ誰の本だかひと目じゃ全然わからないよ!

全223ページの4章構成で、100問+投了直前の一手として10問を追加。大きな問題図の下に2〜3行程度のヒントが掲載されています。また三手一組の手が正解の場合は、ヒントの欄に(三手)と記してあります。解説のページには解答図+参考図の2枚の盤面図が配置されています。目次は以下の通りです。

  • 第1章 攻めの妙手、受けの妙手(第1〜36問)
  • 第2章 逆転を狙う勝負手(第37〜58問)
  • 第3章 攻めの決め手、受けの決め手(第59〜75問)
  • 第4章 丸山流、勝つための一手(第76〜100問)
  • 投了直前の一手(10問)
駒を犠牲に手番を握る

第1章 攻めの妙手、受けの妙手 第30問より:図は△8五歩まで
▲7五銀とタダで捨てるのが正解で、△同飛ならば▲7六歩、△7七歩成▲同金△7五飛も▲7六歩といずれも銀を犠牲にすることで先手を取ることができるのがポイント。▲7六歩以下は△7一飛に▲5五桂で勝負形に持ち込めます。

これは難しい

第2章 逆転を狙う勝負手 第56問より:図は△8六歩まで
難問。先手苦戦のこの局面で丸山九段が指した手は▲5六銀でした。
桂取りを見せて△4四歩と受けさせるのが真の狙いで、この歩を打たせれば2四飛車の横利きと将来の△2二角が無くなります。△4四歩に▲6五銀△3四飛▲7五歩と、後手玉の小ビンを目指せば形勢は接近します。

なお、▲5六銀に△8四飛には構わず▲4五銀と桂馬を取り、△8七銀には▲7七金の頑張りが利きます。以下△7六銀成▲同金△8七歩成には▲8五歩。

飛車打ちの前に…

第4章 丸山流、勝つための一手 第76問より:図は△4三金直まで
普通に飛車を降ろして先手よさそうですが…。先手陣の気がかりは7九の金が遊んでいることと、△4八歩という美濃崩しの手裏剣が飛んでくるというう2点です。

△4八歩には▲同金や▲3九金でも、△5九飛車と降ろされて先手大変です。ここではじっと▲6九金と寄るのが上記の2つの気がかりを同時に消す好手となります。

丸山九段が後手の場合でも、便宜上先後を逆にして先手側になっています。賛否両論あるようですが、個人的にはこの形式が一番シックリくると思っています。

通常の寄せ・受けをテーマに挙げる類書が多い中、第2章の「逆転を狙う勝負手」のように苦しい場面から、泥沼の戦いに引きずり込む実戦的な指し方もテーマになっている点が特徴です。

「実戦で指した私の手が最善手とは限りませんが…」と章の最初で語っておられますが、20問の問題を解けばなんとなくではありますが、感覚は伝わってきます。

解説ページに盤面図が2枚ある割には、その局面のポイントもしくは着眼点、正解手とその応手に関する解説はキチンとしています。読みを相当入れないと指しにくい「重い手」なども登場するため、難易度はやや高い部類に入ります。

「丸山流(激辛流)=決め所で寄せない」というイメージが、一部のプロ・ファンの間に存在していることを本人も認識しているのか、「丸山流も決めるときには決めるのです。きっぱり!」と珍しく自己主張してる部分があって面白い。

米長の将棋 4巻(文庫復刻版)」の後書き・解説が丸山九段ですが、短い文章の中にも九段の文章力・表現力の高さ(米長永世棋聖の本質を清濁併せ呑む…云々と分析)が伝わってきました。本書のような「次の一手」形式の本もいいと思いますが、「将棋世界」で自戦記を連載したり、「戦いの絶対感覚」タイプの棋書を執筆して、丸山九段の将棋・本人の魅力をもっとファンに伝えて欲しいとも思います。