森下卓 妙技伝(犬研シリーズ Vol.3)

手堅い将棋の代名詞
この本の詳細をAmazonで見る

評価:C
対象者:5級〜六段
発売日:1994年8月

森けい二 妙技伝」に続く、シリーズ最終巻(と言い切ってもいいはず)は森下九段の実戦を題材としています。

前作と同じことを書いて恐縮なのですが、「羽生善治 妙技伝」と同じ構成ですので、レビューはそちらの方を参考にしていただければと思います。

題材としている将棋は1990〜1993年ですので、早指し新鋭戦(決勝で佐藤に●)・新人王戦(決勝で森内に●)・全日本プロ(羽生に2−3)・銀河戦(決勝で郷田に●)・棋聖戦(対屋敷 1-3)・竜王戦(対谷川 2-4)など、決勝で敗れることが多かったことから「準優勝男」という有難くないネーミングが付けられたころですね。

しかし、普通の棋士ではこれほど多く決勝の舞台に立つことは出来ないわけで、やはり「森下六段」時代は当時の最強棋士の一角を占めていたことは間違いないでしょう。本人もその様な趣旨の発言をしておられました(将棋に関しては自分・他人に関係なく、キッパリと言い切りますよね)。

僕は「森下の四間飛車破り」、「森下の対振り飛車熱戦譜」そして「森下の矢倉」を持っていますので、何度も森下九段の棋譜を並べましたが、その堅実に厚みを築いていく棋風には何度も唸らされました。

本書でも手厚い「森下ワールド」が堪能できるのですが、森下九段によるとあえて難しい問題を選んだとのことです。実際に読んだ感じではシリーズ前2作と難易度はそれほど変わりません。ただ、ジッと端を突いたり、遊び駒を自陣に引きつけたり、局面を落ち着かせるために持ち駒を使って手厚く受けたりと、曲線的な手が数題あってその辺は難しかったです。

全441ページの2章構成で1ページにつき問題図が2枚、そしてページを捲ると簡単の解説と参考図が掲載されています。目次は以下の通りです。

  • 実戦次の一手300問
  • 森下卓・勝局100番(1990年〜1993年の棋譜)
  • 巻末付録・A級昇級までの熱戦
四間穴熊を銀冠で迎え撃つ

第216問 ▲小林(健) △森下より 図は▲4五歩まで
対四間穴熊における森下九段の銀冠は「棋風にピッタリ」と自他共に認めているところです。この局面では△5二桂と手厚く受けて流れを緩やかにするのが森下流です(△3六歩と金を取るのは駒損ながらも▲4四歩が厳しい)。

実戦では以下▲4六金△5四銀▲4一銀△4五歩▲3三角成△同金直と進んで、金銀四枚でガッチリ厚みを築いて後手ペースとなりました。

戦いの前に自玉を…

第275問 ▲森下 △高橋より 図は△3三金寄まで
45の銀を拠点に▲4四歩と▲3四歩と楔を打ち込んでいます。一見すると攻める体制は万全そうに見えますが、自玉に目をやると角のラインが気になります。

正解は▲8八玉の早逃げです。実戦では以下△7五桂▲同香△8六歩▲同歩△8七歩▲同金△8五歩に▲3四桂と打ち込んで先手有利となりました。