森けい二 妙技伝(犬研シリーズ Vol.2)

終盤の魔術師の寄せと受けを堪能
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評価:C
対象者:5級〜六段
発売日:1994年1月

戌年生まれの棋士(羽生・森内・森・先崎・小野)+森下九段による研究会「犬研」。所属棋士の実戦譜から次の一手形式で問題を出題する「犬研」シリーズの第二弾は森九段です。

同研究会に所属していた先崎八段がまだ若い頃、当時よくお世話になっていた室岡七段邸で偶然見た森九段の棋譜に引き込まれ、何度も盤に並べてその終盤力を堪能した話は有名ですね。

また森九段は終盤に勝負手を連発して、不利な将棋を幾度も逆転勝ちしたことから"終盤の魔術師"と呼ばれています。今でも「NHK杯将棋トーナメント」の対局者紹介でその異名が使われていますが、僕としては同棋戦の対神崎戦(2007年5月)の感想戦で「これは無理攻め。暴走(房総)半島。」とコテコテの親父ギャグを全国放送で発信したイメージの方が強かったりします(笑)。

前書きが長くなってしまいましたが、本書もシリーズ前作「羽生善治 妙技伝」と同じ構成ですので、レビュー自体はそちらの方を参考にしてもらえればと思います。

おさらいすると、1.後手番で考えるときも盤面の上下変更はなし2.肝心の盤面図に誤植がある3.棋譜に解説が付いていないなどです。2は改善されましたので、問題自体を疑う必要はなくなりました。まぁ、当たり前なんですけどね。

全433ページの2章構成で1ページにつき問題図が2枚、そしてページを捲ると簡単の解説と参考図が掲載されています。目次は以下の通りです。

  • 実戦次の一手300問
  • 森けい二・勝局100番(1982年〜1988年の棋譜)
  • 巻末付録・平成5年森けい二特選譜

題材となっている将棋と掲載棋譜は1982年〜1988年のものとなっており、1994年に出版されたことを考えるとやや古い。これは前書きで森九段が『A級八段になったバリバリの頃、九段昇段、初タイトル(第40期棋聖戦)…』と書いておられるように、全盛期(第三者がこう書くと失礼かも)の将棋を見て欲しいという思いなのではないでしょうか?

頻出の局面ではこの角打ちがあります

第147問 ▲森 △関根より 図は△2三銀まで
序盤の▲2五歩に対して後手が△3三角と上がってから変則的に矢倉(いわゆる無理矢理矢倉・ウソ矢倉)を目指す場合、△4二角と引いた瞬間に▲2四歩と突いて角交換するのはこの形の常套手段です。

角交換後に△2三銀として後手が銀冠への組み換えを狙ってきた局面ですが、ここでは強く▲2三飛成とする手が正解です。以下△同金▲8三銀△同飛▲6一角で飛車・金の両取りがかかります。

超難問

第288問 ▲森 △福崎より 図は△6五桂まで
超難問です。もちろん僕も不正解。玉頭にプレッシャーを掛けられており、▲6四馬と飛車を取ると△5七桂不成から詰まされてしまいます。ここでは▲5六飛と浮いて銀の効きに自ら入るのが絶妙手となります。

対して△同銀成だと先手の玉頭から銀が離れるので、▲6四馬と飛車を取って一手勝ちが目指せます。実戦では△7七桂不成▲5九玉△5六銀不成に▲6四馬として、以下△6九飛▲4八玉△4七銀不成▲同玉…とわずかに詰まず先手勝ち。

本書に続くシリーズ第三弾は「森下卓 妙技伝」。前書きによると、森下九段は第29期王位戦(1988年)の挑戦者決定戦で森九段に逆転負けを喫し、その日の打ち上げの席で対戦相手の森九段から『明日の研究会にはちゃんと来いよ』と言われたのが何よりも骨身に応えたそうです(笑)。