橋本崇載の勝利をつかむ受け

数少ない受けの入門書です
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評価:B
対象者:10級〜3級
発売日:2010年2月

講師に"ハッシー"こと橋本崇載七段、アシスタントに中村桃子女流初段を迎えた「NHK将棋講座 橋本崇載の受けのテクニックを教えます(2009年4月〜9月)」のテキスト4〜7月号分を加筆・再構成して単行本化したものです。

今時、こんな紫シャツどこで売ってんだ?
全国のお茶の間を震撼させた伝説のNHK杯戦(2004年 対松尾七段)です。
将棋も髪型も服装も字幕の通り橋本先生の「勝ち」!

テーマとなっているのは中・終盤における受けの基本テクニックです。
一局の将棋を勝ちきるうえで「受け」は「攻め」と同じくらい重要な要素ですが、「地味で面白味がない」「そもそも参考になる入門書が少ない」などの理由で基本をしっかりと勉強していない方も少なくないと思います。

しかし、その分だけ実力の差がハッキリと出る分野とも言えますので、受けが苦手な方は機会を見つけて、是非とも基本を身に付けておきたいものです。

本書は全223ページの3章構成で、見開きに盤面図が4枚は配置されています。
なお、本書は講座のテキスト8〜9月号分の内容(苦手戦法の受け方など)は収録されていませんので、ご注意ください。目次は以下の通りです。

第1章 終盤編 正確な読みで勝ちきる
守りの大切さを知ろう / 切り返して先手を取ろう / 玉の早逃げをしよう / 底歩の形をつくろう / 相手の玉を利用して守ろう / 犠打で手を稼ごう / 合駒を工夫しよう / リスクを恐れず踏み込もう

第2章 中盤編 優れた大局観で優勢を築く
歩の手筋を使おう / 軽くさばいて守ろう / 自陣を補強しよう / 離れ駒を活用しよう / 争点を消して受けよう / 厚みを築こう / 端攻めの対応を覚えよう / 自陣飛車・自陣角で守ろう

第3章 問題編 実戦に応用する

有名な格言を思い出そう

第1章 終盤編 玉の早逃げをしよう より
▲8三銀として詰めろを掛けるのは、△7八銀成▲同銀△同飛成▲同玉△6七角▲8八玉△7八金から先手玉は詰んでしまいます。

ここでは「玉の早逃げ八手の得」の格言を地で行く▲9九玉が態勢を入れ替える絶妙の一手となります。対して△7八銀成▲同銀△同飛成は上記の変化と違って王手とならない(早逃げの効果)ため、先手の手番となり▲8二銀△9二玉▲8三銀で先手勝ちとなります。

合駒の正しい選び方

第1章 終盤編 合駒を工夫しよう より
受けのジャンルで僕が一番苦手としているのは、即詰みを逃れる「合駒選択」です。本書でも有名なこの問題がテーマに挙がっていました。皆さんはわかりますか?

@▲2七歩は△2八歩▲1九玉△1八歩▲同玉△2七香成以下詰みですし、A飛・金・桂も同様の筋で詰んでしまいます。いずれも太字で示した△1八歩が重要な一手となっていることを考えると正解が見えてきます。

正解はB▲2七銀です。銀ならば上記の△1八歩に▲同銀と取ることができるので詰みがありません。C▲2七角でも同じように思えますが、角は頭が丸いので△1八歩▲同角に△2九歩成▲同角に△2八香成で詰んでしまいます。

美濃囲いに対する端攻めは定番

第2章 中盤編 端攻めの対応を覚えよう より
端攻めに対する対応の仕方は彼我の持ち駒により大きく変わりますので一概に言えません。図で普通に▲1七香と取るのは△2四桂と控えて打たれ、次の△1六歩を見せられると先手思わしくありません。

ここでは▲2六歩とするのが端攻めを緩和する一着です。「学校の先生なら蛍光ペンでマーキングさせる」(原文そのまま)くらい重要な手で、以下△1五香に▲2七銀と上がり次の▲1六歩を狙います。後手は△1八歩成としますが、▲同香△同香成▲同玉となると後手の端の方が薄くなっており先手有望です。

手抜いて受ける筋もあります

第3章 問題編 実戦に応用する より:図は△9五歩まで
穴熊の急所を突いた端攻めですが、普通に▲9五同歩と応じるのは△9七歩▲同香△8五桂として▲2一飛成には△9七桂成▲同銀に△8五桂の「おかわり攻撃」で先手は苦戦を強いられます。

図では端を手抜いて▲2一飛成と桂馬を補充するのが重要な一手となります。以下△9六歩の取り込みには▲9三歩△同香▲9四歩△同香▲8六桂が相手の端攻めを逆用したカウンター攻撃です。

後手は△9五香と交わしても構わず▲9四桂と跳ね、以下△8三玉には▲6一飛成△同銀▲8二金△9四玉▲8三角で先手勝勢となります。このように端歩を突いた穴熊は手抜きが利く場合もあります。

目次だけではちょっとわかりにくいかもしれませんが、テーマとなっているのは自玉周辺の受けだけに留まらず、突破されそうな飛車先の受け方、囲いの厚みの築き方、自陣飛車の活用など幅広い分野をカバーしています。

どのテーマも冒頭に講座のメインとなる問題(テーマ図)が掲載されています。この問題はやや難易度が高いので、すぐに解説は行いません。代わりにまず難易度を下げた問題をいくつか出題し、その局面での考え方をわかりやすく解説してポイントを理解してもらってから、「再掲 テーマ図」に応用するスタイルとなっています。

受けの成功例だけでなく、失敗例も盤面図を交えて解説しており、従来のNHK将棋講座シリーズに比べてキツキツ感はなく、ゆったりとした構成になっています。

この分野に関する棋書は数少ないうえに絶版になっているものもありますので、受けの必修手筋が一通りマスターできる本書は中級クラスまでの方ならオススメです。

ただし、復習用に何度も解くような本でありませんので、問題集として何かもう一冊欲しいところ。特に2枚目の盤面図で紹介した「合駒選択」は練習あるのみです。

凌ぎの手筋186」や「終盤の定跡 基本編」は入手困難ですが、最近の本では難易度が上がるものの「実戦に役立つ詰め手筋(第3・4章)」や「将棋世界」の2010年3月号の付録「受けと凌ぎ」が大変参考になりましたので、一度チェックしてみてください。