美馬和夫:秘伝 穴熊王 堅い・攻めてる・切れない・勝ち!

玉の固さだけでなく、遠さを生かすことも大切
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評価:A
対象者:5級〜三段
発売日:1995年3月

穴熊一本でアマトップまで登りつめた稀代の穴熊師・美馬和夫さんによる穴熊特有の指し方と感覚の養成書です。近年は、アマチュアの穴熊と言えばアナグマンの異名をとり、共著「とっておきの相穴熊」も出版された遠藤正樹さんが有名ですが、それより以前に「将棋ジャーナル(廃刊)」の連載などで全国に穴熊信者を増殖させたのは間違いなく美馬さんの穴熊(美馬熊)でしょう。

本書は、MYCOMの「定跡外伝−将棋の裏ワザ教えます」「金言玉言新角言−実戦に役立つ新格言集」の姉妹書という位置づけになっており、10のテーマ(以下の目次参照)にそった格言・珍言(?)を盤面図と美馬さんの解説を交えながら読み進めていきます。

全223ページの10章構成。見開きに盤面図が4枚という構成になっています。

第1章 オリジナル手順
第2章 さばくコツ
第3章 戦いに備える
第4章 二つの玉頭戦
第5章 終盤での固め方
第6章 穴熊流の攻め
第7章 逆転の秘技
第8章 粘るテクニック
第9章 駒落ちにも穴熊
第10章 なりゆき穴熊

第3章 戦いに備えるより:図1は△2四角まで
▲2六歩から逆襲して厚みを築きにいく手が正解。△同歩ならば▲2五歩△1三角▲6八角から▲2六金が狙えます。従って▲2六歩には△1四銀と指しますが、以下▲2五歩△同銀▲6八角△2六歩▲2七歩△同歩成▲同銀△3三桂▲2六歩△1四銀▲2八金△2二玉▲3八金引と敵の厚みを消すことに成功しました。

第5章 終盤での固め方より:図2は△6八金まで
薄くなった穴熊にべたっと金を張りつかれるのは形勢不利の感じもしますが、飛車を餌に▲7九金と打つのが正解。△5九金と飛車を取るのは後手の金がそっぽに行き、次の△4九飛成の際に金が竜の横利きを邪魔しているので、▲7五歩が間にあってきます。△7九同金▲同銀△2四角には▲7八金があります。

最初のページは先手振り飛車穴熊で▲3七銀から▲2八飛〜▲2六歩という「穴熊棒銀」なるトンデモ戦法が紹介されている(失踪前の林葉直子女流がタイトル戦で使用)が、それ以降は上の図のような穴熊特有の指し方について詳しく解説されています。

図1のほうは対銀冠戦ではよく現れる筋で、昔は穴熊の自玉頭の歩を突くということで筋悪感を覚えて最初は躊躇しましたが、本書を読んでからは普通にさせるようになりました。因みに、図1は仮に△3三桂馬と跳ねてあっても、こちらも▲6八角が入っていれば、構わずに▲2六歩を突けます。

図2も穴熊党なら是非覚えたい頻出の手筋です。自陣に駒を埋めて相手にそっぽの駒を取らせる以外にも、と金攻めに対して6八の銀を▲5九銀とバックして、△同ととやはりそっぽに行かせるなどの応用も利きます。

どの戦法もそうですが、定跡書だけではわからないその戦法独特の指し回しというものを身につけてこそ初めて、その戦法が自分のものになったといえます。そういう意味では、穴熊を指して日が浅い方にはオススメしたい一冊です。

ただ、前述の姉妹書「定跡外伝」と「金言玉言新角言」は文庫として復刊されているのにも関わらず、穴熊エキスが十分に詰まっているこの好著がスルーされているのが非常に残念。有段者の方は「とっておきの相穴熊」とあわせて読むと勉強になると思います。

余談ですが、著者プロフィール紹介の「第1回レーティング選手権全国大会優勝」「都名人」「早指し日本一」「マグロ名人」はわかるのですが「電波名人(!)」というタイトルは初見です。今の時代ならネット世代に爆笑されそうな凄いネーミングです。