中終盤!!カラクリ将棋 (屋敷伸之の忍者将棋)

観戦記の入門書としてちょうどいい
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評価:B
対象者:10級〜三段
発売日:1991年12月

18歳で棋聖位を獲得し、史上最年少でのタイトル獲得記録を現在に至るまで保持している「忍者(オバケ)屋敷」こと、屋敷伸之九段の実戦(中・終盤のみ)解説書です。著者は観戦記者の甲斐栄次さんで、屋敷九段は監修を担当しています。

登場する対局は、棋聖位獲得の一番となった対中原戦、翌年の初防衛戦となった対森下戦をはじめ、佐藤(康)・森内・南・島・中田などの計20局となっています。

本書は従来の棋譜解説・自戦記と異なり、以下に挙げる新しい試みを導入し、プロの実戦を鑑賞する際に必要な棋力のハードルを下げています。

1.まず冒頭で「カラクリシーン」と題して、局面を優勢にするべく屋敷九段が放った手筋を実際の盤面図でハイライトとして掲載しています。

2.次にその手筋を初・中級者でも理解しやすいように、部分図に分解して、改めて狙い筋や他の局面での応用方法を解説します。また「カラクリシーン」以外の場面で登場した手筋も紹介しています。

3.以上の段階を踏んだ上で、従来の観戦記形式で屋敷九段の将棋を見ていきますが、先述の手筋が登場した部分には「再掲カラクリシーン」という記載があり、もう一度実際の盤面図で復習します。

4.次に「カラクリ封じテクニック」と題して、どのように指せばその手筋を防ぐことができたのかを相手の立場で考えます。

5.中・終盤のみをクローズアップして解説していますので、最後に初手からの棋譜を掲載…といった具合になっています。

矢倉崩しの常套手段

第57期棋聖戦 第三局より(▲屋敷 △森下):図は▲4一角
図で放たれた▲4一銀が矢倉の要である3二の金を狙った矢倉戦頻出の手筋です。特にこの場面では△3一金とかわすと、▲3二銀打△同金に▲1三角成という必殺手(何で取っても▲3二飛成の詰み)が待ち構えています。

▲4一銀に対して△3三歩と受けましたが、続く▲5二銀打としつこく絡むのも是非覚えておきたい手筋です。実戦は▲5二銀に△5三金▲4六歩△5六銀と進み(下図を参照)、一見すると先手の切れ筋に思えますが・・・

最後に派手な決め手がありました

△5六銀とかわされたこの局面では▲5八飛が攻めをつなげる一手で、銀を渡すと▲3二銀成△同玉▲4一銀打の俗手で寄せられてしまう後手は、△4七銀成と飛車の当たりを避けました.

そこで屋敷棋聖(当時)が指した▲5四飛(!)が決め手となりました。対して△同金は以下▲3二銀成△同玉▲4三金△2二玉▲3二金と玉を追いながら、手順に角を持駒にして寄せ切れます。

マジックに例えるなら、最初に「種明かし」を見てから、本番を鑑賞する感じで、どこがポイントの局面だったのかがすぐにわかるところが本書のウリです。
こういう形式は他に見ませんが、敷居が高くなりがちなプロの棋譜鑑賞も本書のスタイルにすれば、多くの方に受け入れやすいのではと思います。古い本ですが、なかなかの掘り出し物です。

ただし、著者が屋敷九段の渾名である「忍者(オバケ)屋敷」にこだわり過ぎたのか、各対局の見出しが「敵陣中発火手裏剣の術」「玉頭炸裂!爆弾金の術」のように忍術関係ばかりなのと、文中にも忍者を意識した単語が、随所に登場している点が気になりました。

なお、屋敷九段のファンの方には、好局・残念局を自ら回顧した自戦記形式の本「屋敷伸之の将棋 茫洋」がオススメです。