鈴木大介の振り飛車自由自在

A級棋士の捌きのコツがわかります
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評価:B
対象者:5級〜四段
発売日:2005年2月

本書は鈴木大介八段が講師を務めた「NHK将棋講座(2003年10月〜2004年3月放送)」のテキストを加筆・修正したもので、テーマとなっているのは振り飛車における対居飛車急戦・持久戦の戦い方です。

定跡解説書ではなく、「いかに捌くか」「厚みを築くか」「寄せ方」「粘り方」などを鈴木八段の実戦を元に、講座形式で読み進めていきます。

章末にはテーマとなった戦型の実戦譜が計9局、注釈付きで掲載していますので、手の解説が詳しくなった自戦記と思ってもらっても構わないでしょう。

全222ページの2章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は次のとおりです。

第1章 対急戦指南
四間飛車対棒銀・7筋早仕掛け・地下鉄飛車・5筋位取り・△6五歩
角交換中飛車 / 石田流 / 向かい飛車対△6五歩/ 四間飛車穴熊対地下鉄飛車
5筋位取り中飛車 / 三間飛車対右四間飛車

第2章 対持久戦指南
四間飛車対居飛車穴熊・左美濃・右四間穴熊・トーチカ
三間飛車対トーチカ・左美濃 / 5筋位取り中飛車
四間飛車穴熊対銀冠・居飛車穴熊 / 相振り飛車

対居飛車穴熊での指し方について

第2章 四間飛車対居飛車穴熊より ▲鈴木△先崎:図は△4四歩まで
以下▲6七銀△5二金右▲7八飛△1一玉▲7五歩△同歩▲6六角△8六歩▲7五飛△7三歩▲8六歩△同飛▲7七桂が有力手順の一つです。▲7八飛が軽いフットワークで、▲7七桂まで進めば「ハッキリ先手よし」と鈴木八段。以下△4一金寄には▲8五飛△同飛▲同桂△8九飛▲8二飛で穴熊に固さ負けしません。

各テーマの基本図までは解説はなく手順のみを掲載しています。本書のスタイルは、基本図から数手進むごとに「指し手1」という見出しで、我々アマチュアが第一感で指してしまいそうな手の変化手順と駄目な点を、そして「指し手2」で、鈴木八段の選んだ手とその狙い、変化手順を解説していきます(「指し手3」がある場合もあります)。

一枚の図面で進む手数はおおよそ5〜11手で、「序盤:指針」「中盤:飛車特有の捌きと頻出手筋」「終盤:正しい寄せ方・受け方」が満遍なく学べるようになっています。また、講座の最後には「まとめ」のコーナーがあり、その戦型で戦う上でのポイントがまとめられています。

例えば「四間飛車対トーチカ戦法」では…
1.△4四角には、地下鉄飛車とトーチカ、どちらが来ても大丈夫なように用心する。
2.トーチカ対策の基本形は、美濃囲い+5六銀+6五歩。それから▲4七銀と引いてダイヤモンド美濃に。銀冠に組むのは主導権を握られる。
3.▲4七銀引きとしたらすぐに▲5六歩。▲5五歩を見せて6二の銀を金縛り状態にする。▲3六歩〜3七桂は、展開によって不要。
…といった具合です。なかなかいいこと書いてありますよね?

鈴木八段の棋書はどれもポイントだけを簡潔(過ぎ?)に解説していますが、本書は実戦が教材となっていますので、講座形式と言えども高段者以外の方は実際に盤で並べないと難しいと思います。

「NHK将棋講座」テキストの書籍化、特に本書は盤面図と手順解説の挿入場所に難があり、「〜図以下の指し手」「〜図と同様に進む」「本譜は〜図で」と記されていたら、その盤面図はそのページにないことが多いのが大きな欠点です。

四間飛車だけではなく三間飛車や中飛車の急戦と持久戦を一冊に詰め込んだので、スペースの調整ができなかったのでしょうが、もう一工夫してほしいように思いました。その辺がちょっと残念です。

章末の掲載棋譜は「力強い受けが好み」という鈴木八段の言葉どおり、終盤の受けに重きを置いた選局になっています。

大体、こういうオマケ的な棋譜は並べない人が多いと思います。しかし、本書に掲載されている「対地下鉄飛車における四間飛車穴熊の受け方」や「対右四間における三間飛車の受け方」はこの型の決定版とも言えるものなので、是非並べてみましょう。

特に後者の▲9八角と打って桂取りを受ける手順は、定跡を知らない人には指しにくいです。「何のことかサッパリわからない」という三間飛車党の方は、本屋さんでP112を立ち読みしてください(笑)。覚えておくと必ず役に立ちます。

なお、振り飛車の戦い方をテーマとした「NHK将棋講座」テキストの書籍化には久保八段の「久保利明のさばきの極意」があります。こちらもほぼ同じ構成となっていますが、本書よりは幾分読みやすくなっていますので、振り飛車の捌きを勉強したい方はそちらの方が良いかもしれません。