杉本昌隆の振り飛車破り

ポンポン桂戦法が解説されているのが貴重です
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評価:C
対象者:5級〜三段
発売日:2007年2月

相振り革命」シリーズでお馴染みの杉本七段(新年度の「NHK将棋講座」の講師に決定)が著した振り飛車破りの本です。振り飛車党による対居飛車の棋書は数多くありますが、振り飛車党が居飛車側を持って解説する本格的な本は初めてではないでしょうか?

振り飛車の長所をよく知っているのは振り飛車党ならば、その弱点も知っているのもやはり…という企画のもと書かれたそうですが、その出来は如何に…

全239ページの7章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。

対四間飛車編
第1章 対後手藤井システム
第2章 対先手藤井システム
第3章 5筋位取り
第4章 ポンポン桂作戦

対三間飛車編
第5章 先手三間対穴熊
第6章 先手三間対銀冠
第7章 山本流石田封じ

狙いは単純ながらも侮れないポンポン桂

第4章 ポンポン桂作戦より:図は▲4五桂まで
いきなりの▲4五桂跳ね→角交換→飛車先突破と、単純な狙いながらも奥が深い戦法で、昔は宮坂八段や富沢八段が得意とされておられた戦法です。成立の条件としては1.振り飛車が△4三銀型であること 2.振り飛車の玉が穴熊でないことが挙げられます。

仮に上図で後手が△3二銀型なら、この▲4五桂跳ねは当然成立しませんので、その場合は▲6六角として、次の▲5七角を見せて△4三銀と上がらせてから、仕掛けることになります。

対藤井システムのページが全体の4割近くを占めていますが、対△藤井システムでは居飛車急戦策を、対▲藤井システムでは金銀4枚で玉を固めてから△4五歩と角交換を挑む形、△5五角と出て▲4七金を強要してから△6四銀と急戦策に出る形をメインに解説しています。

この辺は「振り飛車ワールド」における千葉五段の講座に近い感じで、かなり細かい手順まで研究されています。この2つの章だけはかなり内容が高度になっています。

他の章は、「山本流石田封じ」(関西の山本五段創案の右四間飛車)や本格的な棋書で解説されることは稀な「ポンポン桂(上図参照)」などがテーマとなっています。

この「ポンポン桂」の章は25ページ用意されており、その狙い筋だけでなく、プロの実戦を元にした研究も紹介しているなど本格的な内容です。ただし、最初の3ページをのぞいて、振り飛車側は全て藤井システムで、「B級戦法の達人」などの奇襲系の書籍で紹介されてる△8二玉と入城した美濃囲いではありません。

また、本書の特徴として、随所で「振り飛車の視点」と「マル秘」というコーナーが登場し、それぞれ「振り飛車党から見た局面の解説」と「居飛車の秘策」が解説されている点が挙げられます。特に後者は、最善の手順ではないものの、玉の堅さや手順の明快さなどを考えると「より実践的」だと思われる手順を紹介しており、なかなかためになります。

例えば、対▲藤井システムの章ではプロの実戦に現れていないものの、杉本七段が谷川九段との研究会で指摘された手などが紹介されています。

ただ、振り飛車破りの本であるならこちらの「マル秘」コーナーを多くするべきだと思うのですが、前者の「振り飛車の視点」の方が多いのが残念です。逆に「ポンポン桂」などは具体的な受け方を解説した本がないだけに、ここでこそ「振り飛車側の視点」がほしいのですが、こちらはどちらもなかったりと突っ込み不足の感が否めません。

それと、振り飛車が先手の局面は盤面図もそのまま掲載されているのも減点です。居飛車の視点から考える本書のコンセプトとしては、便宜上、先後逆の盤面図を用意するくらいはしてほしいところ。

特に、この状態で前述の「振り飛車の視点」を解説されると、ずっと振り飛車党向けの話を読んでいたのではないかと錯覚して、非常に紛らわしかったです。

「振り飛車党による振り飛車退治」という企画、メジャー戦法だけでなく、ポンポン桂などもテーマとしてあげた点は評価できますが、イマイチ練りこみが足りない気がしました。