先崎学:ホントに勝てる穴熊 先崎式将棋レクチャー&トーク

アマチュア初段が対象です
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評価:A
対象者:8級〜初段
発売日:2003年1月

ホントに勝てる四間飛車」「ホントに勝てる振り飛車」に続くシリーズ最終巻です。居飛車穴熊と振り飛車穴熊における指し方のコツを定跡と交えつつわかりやすく解説しています。

このシリーズはアマ初段を対象としていますが、基本的な定跡も順を追って見ていきますので、中級者の方も十分勉強になると思います。

『プロなら「こんなもん終っとる」と言って目もくれないであろう局面からわかりやすく解説』と前書きにあるように、優勢になってから勝ちきるまでの具体的な手順をポイントを踏まえて解説している点が秀逸です。

全201ページの6講構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下のとおりです。

第1講 堅さを生かすテクニック―居飛車穴熊必勝法
第2講 堅陣は阻止すれど―それでも強い居飛車穴熊
第3講 肉を斬らせて骨を断つ―振り飛車穴熊VS斜め棒銀
第4講 機を見て玉頭から反撃―振り飛車穴熊VS棒銀
第5講 理想形から細かく攻めろ―振り飛車穴熊VS銀冠
第6講 と金を制する者は穴熊を制す―相穴熊

対斜め棒銀でのさばき方

第3講 振り飛車穴熊VS斜め棒銀より:図は△7六銀成まで
▲8二歩は以下△6六成銀▲同飛△8九飛成▲8一歩成に△8四角という攻防の一手があります。ここは▲8五歩△同飛▲7七銀△同成銀▲同桂と飛車に当てつつ、目標の桂馬を跳ねるが手順を尽くした捌きです。

僕がメイン戦法としているのは四間穴熊ですので、対斜め棒銀(第3項)を例に挙げてみると、『穴熊は完成し、玉が堅いだけでなく戦場から非常に遠い。したがって、左辺は少し譲歩する感じで指すのが良い。玉の囲いを優先したために左辺の駒が立ち遅れており、互角に戦おうとすると無理が生じるから。』と、今後の指針をしっかりとした理由付けをして解説しています。こういった「考え方」のレクチャーは貴重でで、頭に入れておけば局面が違っても応用が利きますよね。

振り穴関連のページで同じことを何回か書いた記憶があるのですが、対銀冠の戦いで左の金をデフォルトで△7二金と密集させる「3×3」の穴熊に組むのは、居飛車の▲8六角の睨みで身動きがとれなくなり、ド作戦負けに陥りやすくなります。

本書ではこの作戦負けの実例を示して、その問題点と正しい左金の使い方も解説していますので、常に「3×3」で戦っている四間穴熊党の同士の方は、ここだけでもいいので立ち読みしておいてください(笑)

また、駒得ながらも大事な攻め駒がソッポに行ってしまう「遠ざかる感覚」、「相穴熊の△5七歩の垂れ歩は△6七にと金があるのと同じ」なので、5筋の歩をいかに切るか(切らせないか)が大事なポイントとなる、など穴熊特有の感覚も随所で学べるようになっています。

穴熊入門書的な棋書はいくつかありますが、定跡と指し方のコツがバランスよく収録され、なおかつ絶版されていないのは本書しかありません。良書ですが、掲載されている盤面図が灰色で、文字の周りも駒を似せて五角形に縁取りされていて見にくい点が少し気になりました。

本書を一通り読み終え、さらに一つ上のレベルを目指そうと思ったら、居飛車党の方なら「渡辺明:四間飛車破り 居飛車穴熊編」を、振り飛車党の方なら「四間飛車道場 第8巻 銀冠vs穴熊」などで定跡を勉強すると良いでしょう。また、穴熊特有の感覚を解説した本には「とっておきの相穴熊」があり、こちらも参考になると思います。