鈴木大介:角交換振り飛車 応用編

既成概念を打ち破る戦法です
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評価:B
対象者:5級〜三段
発売日:2009年6月

対居飛車における従来の振り飛車は、居飛車穴熊・左美濃・玉頭位取り・5筋位取りや各種急戦といったように、居飛車側だけに攻めの主導権があり、どちらかというと受けが主体となっていました。

その状況を一変させたのが、角道を開けたまま序盤から積極的に攻めを狙っていく「角交換振り飛車」です。「振り飛車には角交換を」という従来の常識に真正面から挑戦したこの戦法は、アマチュアはもとよりプロ棋界でも様々な試行錯誤を経て、現在では有力な一戦法として認識されるまでに至りました。

その角交換振り飛車の狙い筋と指し方を、鈴木八段の実戦を交えて解説したのが本書です。前巻「角交換振り飛車 基本編」では、4手目△3三角戦法・△4ニ飛戦法・△8八角成戦法の3つを紹介しましたが、続く応用編となる本書では、4手目△9四歩戦法・△5四歩戦法(ゴキゲン中飛車)がテーマとなっています。

全254ページの3章構成で見開きに盤面図が4枚配置されています。
浅川書房の棋書は、同じく鈴木八段の「パワー中飛車で攻めつぶす本」のように、定跡を「次の一手」形式の問題を解きながらマスターしていくタイプが多いですが、本書ではオーソドックスなスタイルを採用しています。目次は以下の通りです。

第1章 端歩突き越し戦法
第2章 ゴキゲン中飛車から角交換振り飛車へ
第3章 角交換振り飛車と実戦
(対佐藤×2・深浦・丸山・渡辺・先崎+研究会×3の計8局)

振り飛車の形は乱れるが、意外と戦えます

第1章 端歩突き越し戦法 より 図は▲8八飛まで
振り飛車がダイレクトに▲8八飛とまわったところです。このまま流れが落ち着けば、端歩の位も生きてきますが、「そうは問屋が卸さん!」と△4五角があります。

この「△4五角問題」はこの戦法を指す上で避けることのできない重要なポイントです。本書では△4五角以下、@▲3六角△6七角成▲5八金右、A▲3六角△同角▲同歩△3五歩を中心に各変化を掘り下げていきます。

いわゆる△2五桂ポン

第2章 ゴキゲン中飛車から角交換振り飛車へ より 図は△3ニ金まで
ここで歩をパックンする▲8五桂が、角交換振り飛車の可能性を再認識させた一手です。△同飛は▲8六歩から飛車先逆襲が、放置には▲8六歩から、▲5七銀〜6八金の好形を組み上げます。狙いは▲7五歩から▲7九飛です。

角交換振り飛車の本といえば、1年後に出版された「佐藤康光の力戦振り飛車」との比較が気になるところですが、佐藤本は自戦記に重きを置いた構成になっているため、講座内容が尻切れトンボな感じで終了することが多く、同戦法の初心者にはこの戦法のメリットや面白さが十分に把握できる内容ではありませんでした。

一方、本書では基本編と応用編の2冊構成のため、序盤から斬った貼ったの応酬が繰り広げられる「横歩取り戦法」ばりの超急戦から、まったりした持久戦まで、ページに余裕を持って解説してあります。

浅川書房の十八番である「次の一手」形式で読み進めるタイプではないので、要所におけるポイントの明確さはどうかと思いましたが、随所に『@▲○×は〜だが、〜だ。A振り飛車は○×〜だから、後手は動きを制限される、B…、C…』といった箇条書きが登場していますので、かなり読みやすいです。

ただし、他にも候補手がありそうなのに「実戦でそうなる可能性はあるの?」と思うくらい一本調子でドンドン局面が進行していくところも一部あります。また、定跡が整備されているわけではないので断言はできないものの、居飛車視点で見ると公平でないところもチラホラと見受けられます。そういった意味では、定跡書というよりは指南書という感じでしょうか。

なお、本書で登場する戦法はいずれも振り飛車が後手番の時を想定したものですが、本のなかでは便宜上、盤面図を逆さまにして見やすくしてあります。

第1・2章の終わりでは、テーマとなった戦法のポイントを15行程度でおさらいしています。上下ともに空白が目立つので、ここに盤面図を配置すればより分かりやすかったと思います。

第3章は本書だけでなく、シリーズ前巻である「基本編」の内容もベースとした自戦記です。奨励会三段を相手にした研究会での3局、トッププロとの公式戦5局の計8局と結構なボリュームですが、本書は通常の棋書より40ページくらい多いので、講座編に影響がでる(割を食ってページが少なくなる)こともありません。

角交換振り飛車は類書が少なく、先述の佐藤本がイマイチの出来ですので、この戦法を指しこなしたい方には本シリーズがオススメです。ただし、居飛車党の方が、角交換戦法への対策を勉強するには向いていません。あくまでも振り飛車党の方を対象とした本ということで。