櫛田陽一:穴熊ガイド 定跡百科 Vol.2

既に絶版ですので入手は非常に困難です
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評価:C
対象者:5級〜三段
発売日:1988年3月

世紀末四間飛車を発表する数年前の櫛田陽一六段による穴熊の定跡ガイドです。定跡百科というタイトルがついていますが、このシリーズは表紙が黄色いことから当時はイエローブックスと呼ばれており、後年に同じMYCOMからしリーズ化された定跡書「東大将棋ブックス」シリーズと似た構成になっています。

居飛車穴熊から振り飛車穴熊、それに対する地下鉄飛車などの対抗策も全て詰め込んでありますので、このシリーズの中ではかなり掲載手順の変化などが少なく、各戦法を浅く広く紹介する本といってもよいでしょう。

全221ページ、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 居飛車穴熊
(1)居飛穴vs持久戦・石田流・△6四銀・風車・急戦、右四間穴熊、神吉流穴熊

第2章 振飛車穴熊vs急戦
中飛車穴熊vs急戦、三間穴熊vs急戦、四間穴熊vs5七右銀・棒銀・斜め棒銀・引き角棒銀・▲4五歩・5筋位取り、端からの鬼襲(角田流端棒銀戦法|吉田流地下鉄飛車)

第3章 振飛車穴熊vs持久戦
玉頭位取り、天守閣美濃、△6二飛型vs銀冠、△7二飛型vs銀冠、△4四銀型vs銀冠、石田流vs銀冠、6筋位取り左美濃、中飛車穴熊、向飛車穴熊

第4章 相穴熊
△6四銀型、△5四銀型、銀冠穴熊vs石田流四枚穴熊

ここまで居飛車側に組ませると狙いは単純ながら受けにくい

第2章 振飛車穴熊vs急戦より:図は▲8五銀まで
若い方は馴染みがないかと思いますが、この形は角田流端棒銀と呼ばれている戦法です。単純ながら次の▲9四歩からの端攻めが煩いので、△6五銀と先に動きますが、以下▲同桂△同歩▲7七角△6三金▲5七銀△7四歩▲8六歩で先手やや良しです。居飛車にここまで組ませた四間穴熊側の作戦負けと言えるでしょう。

三間飛車穴熊に対する急戦や中飛車穴熊に対する▲3八飛車戦法、四間穴熊に対する右四間飛車や5筋位取り、玉頭位取りなど、近年の棋書には掲載されていない定跡が解説されている点は貴重です。

ただ、「穴熊ガイド」となっていながら、地下鉄飛車などに対する受け方などが全く掲載されておらず、消化不良な面も目立ちました。
また、当時はそれが定跡だったのかもしれませんが、対銀冠の四間穴熊の組み方が△7一金・7二金といわゆる3×3の箱型になっているため、押さえ込まれやすいのが欠点です。現在の対策では左金を△6三金として、居飛車側の構えに対応して△6五歩・6四金としたり△7三金などと活用します。

各章の最後にちょっとした「穴熊コラム」なるものがあるのですが、これが「トリビアの泉」な話が掲載されていてためになりました。1987年の第28期王位戦で高橋王位に挑んだ谷川九段は戦前から「矢倉は指さない」宣言で注目を集め、四間飛車穴熊を採用したことや、加藤一二三九段が1980年の王将戦で大山王将を相手に得意の急戦を捨てて居飛車穴熊に組んで快勝した話などが盤面図入りで掲載されています。

なお、本書で学んだことは姉妹書となる次の一手問題集「穴熊マスター」で復習するようになっています。MYCOMの商売上手がうかがい知れます(笑)。