鈴木大介:明快相振り飛車〜勝てる戦法集

先手番に都合の良い駒組みが目立ちます
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評価:C
対象者:8級〜初段
発売日:2010年4月

もう何冊目になるかわからない(本人も覚えていない?)鈴木八段による棋書。
「また大介(先生)か!」と、その精力的な執筆活動に感嘆しているのか、怒っているのかわからないようなファンの声も聞こえてきそうです。

本書のテーマとなっているのは、四間飛車と中飛車を除いた相振り飛車(先手番限定)です。美濃囲い、矢倉、そして先手番での採用は珍しい穴熊という3つの囲いでの攻め方・受け方、さらに「攻撃重視の▲6七銀型」「厚みで優位を築く▲5七銀型」に分類することができる「左銀」の活用の仕方を解説しています。

前222ページの4章構成で、見開きに盤面図が4枚掲載されています。また、導入部となっている第1章を除く各章の終わりには講座内容を復習するための「次の一手」形式の問題が8問ずつ出題されています。本書の目次は以下の通りです。

第1章 相振り飛車の考え方
第2章 美濃囲い編(▲6七銀型三間飛車・▲5七銀型三間飛車)
第3章 矢倉編(▲6七銀型向かい飛車・▲5七銀型三間飛車)
第4章 穴熊編(▲6七銀型三間飛車・▲6七銀&5七銀型向かい飛車)

中央の位を張って厚みを築きます

第2章 美濃囲い編より:図は△6三金まで
左銀を▲5七銀とした場合にはここから▲5五歩として△2四歩に▲5六銀と位を張って中央に厚みを築くのがセオリーです。

後手が突いた6筋の歩を争点として、▲6六歩〜▲6八飛から▲6五歩と攻める筋が先手の狙い筋の一つとなりますが、後手も△5四歩〜△5二飛から反発する手順があります。

飛車を振る前に後手の駒組みを牽制します

第3章 矢倉編より:図は△7二銀まで
通常は▲8八飛と飛車を振るのが自然ですが、本書に限らず鈴木八段の相振り本・講座では、後手の矢倉囲いを掲載する意味で▲7五歩と位を張るのが定番です。

以下、△5二金▲8八飛△7一玉▲3八金としますが、その後も▲4六歩を突かずに駒組を進めるのがポイント。この形で▲4六歩を突くと、数手後に△5四銀〜△2四角〜△3三桂から4筋を争点にされて、一方的に攻められるリスクがあります。

ただし、杉本七段の「相振り革命最先端」などでも解説されているように、相向かい飛車での後手矢倉は攻め味に乏しく、守勢になりやすいので現在プロ棋戦ではほとんど指されていません。ですので、上図の▲7五歩はあくまでも後手の囲いの選択肢を限定するという意味であり、絶対の一手ではありません。

近年出版された相振り飛車の本は、「戸辺流相振りなんでも三間飛車」や、▲6七銀保留のダイレクト向かい飛車から金美濃に囲って、▲8五歩〜▲6五歩〜▲7五歩とグイグイ歩を突いて局面をリードする「鈴木大介の将棋」、そして先述の「相振り革命最先端」など、その本じゃないと読めない戦型・講座が掲載されていましたが、本書は10年くらい前の創元社の本に多かった「似た内容の本をどこかで読んだぞ」「この駒組みは都合よすぎるのでは?」的な一冊です。

居飛車 対 振り飛車の入門書において、一方に都合のよい駒組みや仕掛け以降の手順を紹介するのは、その戦法の醍醐味やセールスポイントなどをわかりやすく読者に解説するためにも、ある程度は必要と思っています。

しかし、中級クラスを対象とした本でそういった手順(直後の端攻めが見えているのに、端歩を受けるなど)を掲載するのは、もうそろそろどうなんでしょうか?

特に本書のテーマとなっている相振り飛車をはじめ、相矢倉・相掛かり・横歩取りなどの戦型では「本の中で優勢になっている先手番」だけではなく、「斬られ役(?)となっている後手番」でも同じくらい指す機会はあるので、こういうスタイルの本だと後手番になったときにはあまり参考になりませんよね。

本書でも例えば、上図(1番目の盤面)の後手番は、早い段階で2筋の歩交換をして、△2二飛→△2四角→△3三桂として攻めの態勢を整えておけば、本書のように作戦負けになることはなく互角の形勢で渡り合うことができます。

また、後手三間には△3五歩を保留することにより、△4四角→△3三桂→△2五桂という、対▲美濃囲いにおける端攻めに理想的な形を狙うことができるのですが、本書ではそういった形も割愛されています。

第1章では導入部として、美濃・矢倉・穴熊のメリット・デメリット、それぞれの囲いの▲6七銀・▲5七銀との相性などが簡潔にまとめられているものの、肝心の講座編は入門書にしては難易度は高く、中級者にとっては後手番で使えないなど、イマイチな内容です。「鈴木大介の将棋 相振り飛車編」が良かっただけに残念。