杉本昌隆:相振り革命最先端

特に中飛車党にオススメ
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評価:B
対象者:有段者
発売日:2008年6月

藤井九段の「相振り飛車を指しこなす本」と並んで相振り飛車のバイブルとされている杉本七段の「相振り革命」シリーズ。第1巻の発売(1995年)から15年が経ち、この戦型における定跡の進化に大いに貢献しました。本巻は「相振り革命3」に続くシリーズ第4弾となります。

前巻では当時流行の真っ只中であった△3三角戦法と▲3七銀→向かい飛車の作戦がテーマの中心でしたが、本巻ではゴキゲン中飛車の台頭によって振り飛車党にとっては重要課題となった▲中飛車 VS △三間飛車・向かい飛車の戦いや▲6七銀を保留してダイレクトに▲8八飛とする最新形がテーマとなっています。

全238ページの6章構成で、見開きに盤面図を4枚配置。また著者によるミニコラムも4本掲載されています。目次は以下の通りです。

第1章 現代相振りの基礎知識
第2章 後手三間飛車△5五歩・5四銀型(対金無双・美濃囲い・矢倉)
第3章 先手中飛車 VS 向かい飛車・三間飛車
第4章 △3五歩保留三間飛車
第5章 ▲6七銀保留向かい飛車
第6章 感覚を磨く次の一手(杉本七段の実戦を含む全10問)

なお、目次を見ると後手限定の戦型がテーマとなっている章がありますが、この場合は便宜上盤面を上下ひっくり返して、後手番でも盤面図の下側(=先手)からの視点で解説されています。

この筋を知っている方は高段者レベル?

第2章 後手三間飛車△5五歩・5四銀型 対美濃囲いより:図は▲6六歩まで
次の一手がわかる方は、杉本七段曰く「相振りに精通している」そうです。

ここでの急所の筋は△4五歩です。対して@▲同歩は△2六歩▲同歩△同飛▲2七歩△5六飛▲同金△6七銀がありますし、A▲同銀は△5五角▲5六銀△3三角▲7七角△5四銀とされると5筋の位が消えて先手やや不満です。

高美濃を目指すのは左金の動きが非効率

第3章 ▲中飛車 VS △向かい飛車より:図は▲4八金上まで
高美濃を目指すのは飛車の位置の関係で6九の金の動きが非効率になるのが欠点です。本書では中飛車に相性の良い穴熊での戦い方を▲久保−△渡辺の実戦も交えつつ見て行きます。

前巻では第1章で「現代相振りの考え方」を、第3章では「端歩の考え方」がテーマとなっており、流行の戦型だけでなく相振り飛車における普遍的な「考え方」も学べる内容でした。しかし、本巻は前書きに『今回はあえて特殊な戦型をクローズアップしてみた。』とあるように、テーマが非常に限定的です。

したがって、既に本シリーズや冒頭で触れた藤井本で「各囲いの相関関係」や「相手の動きを見てから飛車の振る位置や囲いを決める」などの基礎を固めていないと、理解しにくい内容になっています。

逆に言えば、相振り飛車をバリバリ指しこなしている方にとっては、欠けているピース(=他の棋書で紹介されていない形)を埋めるのに本書はオススメです。

特に中飛車党の方にとっては、鈴木八段の好著「パワー中飛車で攻めつぶす本」で全く登場しなかった▲中飛車 VS △三間飛車・向かい飛車が65ページにわたって詳しく解説されていますので重宝するでしょう。

本書が気になる方は、第1章で現在に至るまでの相振り飛車の変遷が簡潔にまとめられていますので、書店でこの部分だけ目を通すことをお勧めします。

掲載されてる盤面図を見て「?」なら見送りが賢明、そこに至るまでの手順がわかるならレジへGO! シリーズの中では難易度は最も高く、有段者向けです。